10月号 表紙のことば―
Kazuki Kamamura
「十、森の奥のバラ」
「湖を見に行こう。」
先週の日曜日、思い付いた。
小さい舟に乗って、
静かな風に吹かれながら
真正面から、君と話をしたいと思った。
湖は森の奥にあって、
急勾配をゆっくり歩いた。
「あっ。」
君が先に見つけた。
美しいバラの群れ。
赤だけでも、ピンクだけでもない
緑でも、青だけでもない、
瑞々しいバラだった。
この場所だけ魔法にかかったようだった。
一輪だけ、
そう思ったけれど、やはりやめた。
このバラは、ここに咲いているべきだと思ったから。
ここで咲いて、ここで散って、そしてまた来年、
ここに咲いていたらいいと思った。
そしてまた、君とここに来たいと思った。
湖はとても穏やかだった。
君はよく笑っていた。
「僕はね、」
あのバラを思い返しながら、
ゆっくり話し始めた。
